どうも、ICUのカピバラ先生ことDr.カピバラです。
ICUで使用される鎮痛剤や鎮静剤は、患者の苦痛を和らげるだけでなく、適切な治療や処置を行うために必要な重要な薬剤です。今回はICUでよく使用される以下の5つの薬剤について、その薬理作用や用法、注意すべき副作用について解説します。また一般名と商品名もそれぞれ覚えましょう。




1. フェンタニル(Fentanyl)

薬理作用: フェンタニルは強力なオピオイド系鎮痛剤で、μオピオイド受容体に作用して鎮痛効果を発揮します。モルヒネの約100倍の鎮痛効果があり、急性の強い痛みに対して使用されます。
1A中の濃度: 0.05 mg/mL(50 μg/mL)
最大投与速度(50kgの患者の場合): 1時間あたり最大2 μg/kgが推奨されます。つまり、50kgの患者には1時間あたり最大100 μg(2 mL)までが目安です。
半減期: 2~4時間(投与後すぐの分布相は短く、再分布後の半減期はやや長め)
血液分布容積: 約 4 L/kg
透析で除去されるか: フェンタニルは高い脂溶性を持ち、分布容積が大きいため、透析ではほとんど除去されません。肝代謝が主であり、腎排泄が少ないため透析の影響は小さいです。
注意すべき副作用: 呼吸抑制、徐呼吸が最も注意すべき副作用です。特に、投与速度が速すぎる場合や長時間使用した場合、急激な呼吸困難を引き起こす可能性があります。また、消化管運動抑制による便秘や悪心・嘔吐などもよく見られます。
2. ケタラール(Ketamine)

薬理作用: ケタラール(ケタミン)はNMDA受容体拮抗作用を持ち、解離性鎮痛を引き起こします。特にショック状態や呼吸機能が不安定な患者に適しており、鎮痛とともに軽度の鎮静効果も期待されます。
1A中の濃度: 10 or 50 mg/mL
最大投与速度(50kgの患者の場合): 1時間あたり最大1 mg/kgが推奨されます。つまり、50kgの患者には1時間あたり最大50 mg(1 mL)です。
半減期: 2~3時間
血液分布容積: 約 3 L/kg
透析で除去されるか: ケタミンは脂溶性が高く、透析での除去は難しいです。代謝は肝臓で行われるため、透析によるクリアランスにはほとんど影響を受けません。
注意すべき副作用: 幻覚やせん妄、悪夢といった精神的な副作用が生じやすいです。また、血圧上昇や頻脈などの交感神経刺激作用もあり、高血圧患者や心疾患を持つ患者には注意が必要です。
3. プロポフォール(Propofol)(ディプリバン®️(Diprivan®️))

薬理作用: プロポフォールはGABA受容体を介して中枢神経を抑制し、迅速な鎮静効果を発揮します。覚醒が速やかで、持続投与後の回復も早いため、ICUでの鎮静管理に広く使用されます。
1A中の濃度: 10 mg/mL
最大投与速度(50kgの患者の場合): 体重1kgあたり最大4 mg/kg/hが一般的な上限です。つまり、50kgの患者には1時間あたり最大200 mg(20 mL)となります。
半減期: 分布相の半減期は1~8分ですが、再分布後の長い半減期(ターミナル半減期)は4~7時間です。
血液分布容積: 約 2~10 L/kg(非常に広範囲な分布容積を持ちます)
透析で除去されるか: プロポフォールも脂溶性が高く、大きな分布容積を持つため、透析では除去されにくいです。主に肝臓で代謝され、腎排泄される代謝産物も、透析での除去は限定的です。
注意すべき副作用: プロポフォール注入症候群(PRIS)が重篤な副作用として知られています。長時間大量に投与された場合、代謝性アシドーシスや心不全、腎不全を引き起こすことがあります。また、血圧低下や呼吸抑制もよく見られるため、血行動態の監視が必要です。カロリーが多く、カテーテル感染には注意しましょう。
プロポフォールは脂肪エマルション製剤であり、プロポフォールの1 mLあたりには約 1.1 kcal のエネルギーが含まれています。
例えば、プロポフォールを10 mL/hの速度で使用した場合、1時間に10mL = 100mg = 110kcalが投与されることになります。このカロリーは、特に長期間にわたって大量に投与される場合、栄養管理の一部として考慮されるべきです。

またプロポフォールにはいくつかの禁忌があります。
1. プロポフォールまたは成分に対するアレルギー
プロポフォールや製剤に含まれる成分(大豆油、卵黄レシチンなど)に対して過敏症を持つ患者には禁忌です。大豆や卵にアレルギーがある場合、プロポフォールの投与によりアナフィラキシー反応を引き起こす可能性があります。(実臨床では卵アレルギーは問題ないとされ使われる場面は多いです。)
2. プロポフォール注入症候群(PRIS)のリスクが高い患者
プロポフォール注入症候群(PRIS)は、長期間または高用量で投与された場合に発生する可能性がある重篤な状態です。代謝性アシドーシス、心不全、腎不全、横紋筋融解などを引き起こすことがあり、PRISリスクが高い患者には禁忌となることがあります。
3. 小児および若年者の長期間鎮静
プロポフォールは、小児(特に16歳未満)の長期間の鎮静に使用することは推奨されていません。長期使用はPRISのリスクを増大させる可能性があるため、小児患者では短期的な使用が推奨されます。
4. 重篤な循環不全またはショック状態の患者
プロポフォールは血圧を低下させる効果があるため、循環不全やショック状態にある患者ではさらなる血圧低下や心機能の悪化を引き起こす可能性があるため禁忌です。
5. 重篤な脂質代謝異常を有する患者
プロポフォールは脂肪エマルション製剤であるため、脂質代謝に異常がある患者、特に急性膵炎の患者や高脂血症の管理が難しい患者には禁忌となることがあります。これにより、脂肪の蓄積や代謝の負担が増す可能性があるためです。
これらの禁忌を理解し、適切な患者に使用することが、プロポフォールの安全な使用には欠かせません。
救急専門医試験では
プポロフォールは小児で禁忌であること、卵アレルギーが禁忌であることが問われたことがあります。
4. デクスメデトミジン(Dexmedetomidine)(プレセデックス®️(Precedex®️))

薬理作用: デクスメデトミジンは選択的α2アドレナリン受容体作動薬で、鎮静作用とともに軽度の鎮痛効果もあります。患者を覚醒したまま鎮静状態に保つことができるため、コミュニケーションが必要な場合にも使用されます。
1A中の濃度: 4 μg/mL
最大投与速度(50kgの患者の場合): 1時間あたり最大0.7 μg/kg/hが推奨されます。つまり、50kgの患者には1時間あたり最大35 μg(0.35 mL)です。
半減期: 約 2~3時間
血液分布容積: 約 1.3 L/kg
透析で除去されるか: デクスメデトミジンは主に肝臓で代謝されるため、透析ではほとんど除去されません。腎排泄されるのは代謝産物であり、透析による影響はわずかです
注意すべき副作用: 徐脈や低血圧が主な副作用です。特に高齢者や心臓疾患のある患者では、徐脈が進行しすぎることがあり注意が必要です。また、過鎮静による呼吸抑制のリスクもゼロではないため、シリンジポンプで薬剤投与を早送り(フラッシュ)することは基本的には行わず、慎重なモニタリングが求められます。
5. ミダゾラム(Midazolam)(ドルミカム®️(Dormicum®️))

薬理作用: ミダゾラムはベンゾジアゼピン系薬剤で、GABA受容体を介して強力な鎮静および抗不安作用を発揮します。ICUでは持続的な鎮静や短期間の手技的な鎮静に広く用いられています。
1A中の濃度: 5 mg/mL
最大投与速度(50kgの患者の場合): 1時間あたり最大0.1 mg/kgが一般的な目安です。つまり、50kgの患者には1時間あたり最大5 mg(1 mL)です。
半減期: 1.5~3時間(ただし、肝機能や腎機能により延長することがあります)
血液分布容積: 約 1~3 L/kg
透析で除去されるか: ミダゾラムは高い脂溶性と広範な分布容積を持ち、透析ではほとんど除去されません。また、肝臓で代謝され、腎排泄される代謝産物(1′-ヒドロキシミダゾラムなど)も透析での除去効果は限定的です。
注意すべき副作用: 長時間投与した場合、蓄積により覚醒遅延やせん妄が生じる可能性があります。また、呼吸抑制が発生しやすいため、特に他の呼吸抑制作用のある薬剤との併用時には慎重に管理する必要があります。
ミダゾラムは肝臓で主にCYP3A4酵素によって代謝され、いくつかの代謝産物を生成します。その中で最も重要な代謝産物は 1′-ヒドロキシミダゾラム(1′-hydroxymidazolam) です。
1′-ヒドロキシミダゾラム は、ミダゾラムと同様にGABA受容体に作用しミダゾラム自体の8分の1の活性を持つとされています。この代謝産物も活性を持っているため、特に腎不全などで排泄が遅れた場合、薬剤の効果が長引き意識障害が遷延する可能性があります。
ミダゾラムに拮抗する薬は フルマゼニル(Flumazenil) です。フルマゼニルはGABA受容体にあるベンゾジアゼピン結合部位に競合的に阻害します。半減期はミダゾラムよりも短いため、効果が切れると再度鎮静がかかります。
まとめ
ICUでの鎮痛・鎮静管理は、患者の状態に応じた薬剤選択と適切な投与速度の調整が不可欠です。各薬剤には強力な効果とともに、呼吸抑制や血行動態の変動などのリスクがあるため、投与中はモニタリングを徹底し、副作用の兆候を見逃さないことが重要です。安全な使用には、医療チーム全体の緻密なコミュニケーションと適切な知識が求められます。


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